素数交換で意思疎通
素数を使った意思疎通はSFの世界だけのものではない。オリバー・サックスは『妻を帽子とまちがえた男』という著書のなかで、ジョンとマイケルというニ六歳の双子の兄弟について述べている。
このふたりのもっとも深いレベルでの意思疎通は、六桁の素数を交換することだった。ふたりが部屋の隅でこっそり数を交換しているのにはじめて気づいたときのことを、サックスはこう述べている。
「はじめは、まるで最高のワインを舌で転がし、その味と香りを味わっているふたりの通人のように見えた」はじめ、サックスには双子がなにをしているのかわからなかった。しかしサックスは、ふたりの暗号を解読するとすぐに八桁の素数を暗記し、次に双子に会ったときに、ふたりとのやりとりにこっそり素数を忍び込ませた。びっくりした双子は深く集中し、やがてそれが素数であることに気づくと、狂喜した。サックスは、八桁の素数を見つけるのに素数表を使ったが、双子がどうやって素数を見つけたのかは、謎のままだった。この二人の自閉的な物知りは、数学者が見つけられずにいた秘密の公式を知っていたのだろうか。
マーカス・デュ・ソートイ『素数の音楽』新潮社2005年
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