落下感
一瞬のことだった。青柳雅春は眼下に目をやり、そのあまりの高さに下腹部に寒気を感じたが、すぐに手すりを蹴った。
足元から地面が消え、身体が落下する。体内の水分が次から次に、蒸発し、体温がどんどんと低下する気がした。落ちる。速度が増し、自分はこのまま路面にぶつかり、ぺしゃんこになる。そんな恐怖が過ぎる。
目を瞑りそうになるが、無理やり開け、下を見た。
目指したのは路肩に停まるトラックの荷台だ。幌を荷台につけた、トラックがあった。
几帳面な前園さんは、いつも予定通りに行動する。
時間通り、そこにいる。
青柳雅春は身体を丸めた。直後、幌に身体が沈んだ。膝を抱える格好で、横から、落ちた。幌が凹む。下にある段ボールにぶつかる。腕が痛む。落下の恐怖に、心臓が激しく鼓動している。がさごそと激しい音がし、幌が浮いた。小さく、跳ねた。体勢をどうにか整え、幌から這い出す。
伊坂幸太郎『ゴールデンスランバー』新潮社2007年
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