大衆は高い所が好き
「馬鹿と王様高い所に上りたがる」というフランスの諺がある。国見をするためには高い所に上って国を見るのが、政治の一つの条件でありました。ところが大衆文化というものが起こってくる。その一つの兆候は、高い所へ上がりたがるということなのです。
日本でも、男山八幡にケーブルカーができたのが明治四十三年ころです。そして高い所から見下ろして「ああ、いいなあ」という、これが典型的な大衆なのです。神戸のポートタワー、京都のタワー、みんなタワーができるでしょう、高い所へ上りたがるわけです。
南アメリカにリオ・デ・ジャャネイロという港町がありますが、その入り口に砂糖の丘と呼ばれる二つの丘があります。ここへ十八世紀には人は上ったことがないのです。十九世紀の初めに、イギリス人が初めて上ってイギリスの国旗を立てた。当時はポルトガル領ですから、ポルトガル人がすごくおこって、これを取って自分の、ブラジルの国旗を立てにいったのが1820年代です。それくらい昔はだれも高い所へは上らなかった。上ってみると、なかなかいい気持ちだな、いい景色だなということを発見して、いまケーブルカーがついて、観光客がすごいです。
多田道太郎『身辺の日本文化』講談社学術文庫1988年
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