あるスウェーデン人の悩み
私には間接的な情報しかありませんが、そのイギリス人は日本人と結婚して、夫婦でラブホテルを泊まり歩いたそうです。その話しを聞くと、滑り台があって、水をドーンとかぶるとベッドが動くとか、鏡が動くとか、つまり「動く」というところに特徴があるのだそうです。
ところが建築というものは、とくに西洋では動かない。イムーバブルである、不動であるというのが建築の特徴なのです。ですから権威的な建物であればあるほど、シンメトリカルにできています。モスクワ大学のようにもっとも権威主義的な大学は、中心に時計台があります。ごていねいにモスクワ大学は夜になると、ここにイルミネーションがつきます。こんなすばらしい大学をつくることができた、どうだ、ロシアの国力を見てくれ、とこういう感じです。
日本の大学でこんなことをやったら、いっぺんに学生に粉砕されます。何を威張っているのだと。しかし世界じゅうこれが安定した建物のイメージなのです。ところが、日本のラブホテルではすべて不安定で、すべてが動いて、何ともいえない不気味な感じであります。
あるスウェーデン人は日本へきて、西洋らしいものをよく見かけた。しかしそれがぐちゃぐちゃにされている。これを見るに耐えられない。最期はノイローゼになって、スウェーデンに逃げて帰った。何か異様な文明というものが日本社会にできているようです。その象徴がラブホテルです。
多田道太郎『身辺の日本文化』講談社学術文庫1988年
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