1964年時、西ドイツの60倍
日本で戦後長らく使われ、その後使用禁止になた農薬には、無機水銀が大量に含まれていた。水田に散布されれば、それもバクテリアによって有機水銀と化していたのだった。つまり、水俣病を、ごく限られた地域のごく限られた人々だけのものとみなすのは、とんだもない誤りで、日本人全員が「潜在的な水俣病患者」と言ってもさしつかえないほど広範に汚染されている。
この点でも環境ホルモンによる被害と水俣病とはきわめてよく似ていると、白木博士は指摘する。
「日本は北から南まで、戦後の食糧増産でばらまかれた農薬の無機水銀が、土の中で有機化していまだに眠っているわけです。これに工場から垂れ流されたものが加わって、日本は世界一の水銀汚染国になったんですね」
一般にはほとんど知られていない驚くべきデータ表を、博士は私の前に広げた。
「1964年の東京オリンピックに参加した各国選手の頭髪に溜まっている水銀の検査をしたことがあるんですよ。アメリカがニ・五ppm、イギリスが一・五ppm、当時の西ドイツが〇・一一ppm、ところが日本は最高で平均六・五ppm、西ドイツの実に六十倍もありました。この農薬汚染が、『環境ホルモン』と呼ばれるDDTやPCBにもつながってくるわけです。こういうことを私は衆議院の委員会だけじゃなく、ことあるごとに国会議員や官僚、マスコミの人たちに訴えてきたんですが、ほとんだ誰も耳を貸さなかった。いまになってこういう形で環境ホルモンが騒がれて、残念ながら私の予言が当たりだしている、そう思えてならないんですね」
野村進『脳が知りたい!』講談社文庫2010年
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