少々ばかげた忙しさ
ガンと暮らした最初の夏、私は信じられぬほど多くの時間をこの十羽の子ガンたちとともに費やし、信じられぬほどのことを彼らから学んだ。はだかになり野生にかえって、野生のガンたちの群れの社会にとけこみ、ドナウの堤で歩きまわったり泳いだりするのが、私の研究の本質的な部分を占めている。なんと幸福な科学だろう。
私はきわめてものぐさな人間だ。だから私には実験家よりも観察家の方がはるかにむいている。ほんとうに私が生来の傾向に反して仕事をするのは、カントの至上命令のようにきびしい強制があるときにかぎる。野生生活の動物たちを相手とするこのような純観察家的な生活と研究のすばらしい点は、動物たち自体もおどろくほどものぐさだということにある。真の文化をもつひまさえない現代文明人の少々ばかげた忙しさは、動物にはまったく縁がない。勤勉の象徴であるミツバチやアリさえ、一日の大部分をなにもせずにすごす。ただ人間にはそれがみえないだけだ。この偽善者たちときたら、巣にもどってすわったら、もう何一つ仕事ははしない。そして動物たちは、けっしてあくせくしない。
コンラート・ローレンツ『ソロモンの指環』早川書房1998年
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