観光客ご一行様が見たもの
私の仮説はみごとに実証された。かえったばかりの子ガモたちは母親の視覚的な姿にではなくて、母親の呼び声に生まれつき反応するようになっているのである。ちゃんとした呼び声を出すものなら、大きな白いアヒルでも、もっと図体の大きい人間でもかまわない。みんな母親とみなされる。ただし、ある程度以上大きくては、やはりだめだ。
科学にたいする興味から、私はほんとうに何時間もの間、このうんざりする仕事にうちこんだ。聖霊降臨祭の日曜日、私は卵からかえって一日目の子ガモをつれて、五月の草が青々としげった庭の中を、腰をかがめ、ゲッゲッゲッとわめきながら歩きまわっていた。子ガモたちが私のあとから従順にそして正確についてくるので、私はいささか有頂天になっていた。ところがふと私が見上げたら、蒼白い顔が一列になって、庭の垣根にぶら下がっているのが目に入った。観光客の一隊だった。彼らは垣根にしがみつき、たまげんばかりの様子で私をみつめていた。それも当然だろう。口ひげを生やした大の紳士が地べたにかがみこみ、肩ごしにふりかえってなにかを見ながら、草地の中をゴソゴソ歩きまわっていて、おまけにたえずゲッゲッとわめきつづけていたのだから。けれども、けれども、この場の救い主であり、すべてを説明してくれる子ガモたちは、高くしげった草のかげになって、びっくり仰天している群集の目からはみえないのであった。
コンラート・ローレンツ『ソロモンの指環』早川書房1998年
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