変種の水
化学者は、彼らが「核生成」と呼ぶ分子のコンフォメーショナル・インフルエンス(配座感化)に精通している。簡単に言えば、核生成とは分子が並ぶ際の傾向のことで、分子は最初に固定された不動点の周囲に整然と並ぶのが普通だ。このプロセスを経てでき上がるものは非常に強固になる。絹は核生成の産物だ。アワビの貝殻もそうだ。その真珠層でできた表面は、非核生成物質からできたときより3000倍も強い。
プリオン研究者のバイロン・カウイーは、1995年、核生成に関する面白い論文を共同執筆した。その中で、彼は、プリオンを「アイス・ナイン」になぞらえている。「アイス・ナイン」とは、カート・ヴォネガットの小説『猫のゆりかご』に出てくる、零度より高い温度で氷結する変種の水だ。小説では、正気を失った男が、このアイス・ナインの種をわざと世界に解き放つ。その結果、核生成によって世界じゅうの水が凍ることになるのだ(ヴォネガットは、このアイデアを兄のバーナードから得た。バーナードは、雲の中に種結晶を散布して降雨を促す手法を発見した。これも核生成のひとつだ)。
ダニエル・T・マックス『眠れない一族』紀伊國屋書店2007年
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