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2010.02.22

最初はシク活用形容詞

この仕事のために大野は、学習院の教え子たちでチームを編成した。『広辞苑』の基礎語を担当したときにも教え子たちの力を借りたが、今回はさらに大がかりだった。

 大野が辞典で扱う単語を決め、それをチームに渡す。チーム内で話し合い、それぞれが興味のある単語を選び、各自が調べて下書きをする。それを大野が最終的に手を入れて完成させる、という方式である。最初に選んだのは、シク活用の形容詞だった。この形容詞は快や不快、恋慕の情を表わす語が多い。女性たちは、男性には感じ取ることがむずかしい、こまやかな感情のひだを読み取ることに慣れていた。

 そして、それぞれに個性的だった。優しい気性の女性が豪健な意味を持つ単語を受け持つと、弱々しく訳される。逆に、強い気性の女性が優しい意味の単語を担当すると、訳が粗くなる。しかし大野は、それぞれの女性に合いそうな単語を選んで振り分けることはしなかった。そんなことをすれば、感覚の鋭敏な女性たちがどんな反応をするか、火を見るより明らかである。揣摩臆測を招かぬよう、単語の受け持ちはチームに任せた。

川村二郎『孤高 国語学者大野晋の生涯』東京書籍2009年

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