日本人の顔
荒木 「日本人ノ顔」は、一日五時間くらい立って、のべ一千人くらい撮らないといけないから、腰が痛くてね。「東京ノ顔」っていうのでやって、出身訊いてさ、一気に「全国撮ったぞ」ってやろうかと思ったの。でもそれじゃ、本当の東京の顔とは言えないし・・・・・・。アメリカ見ればわかるけど、合衆国って、世界のバカが集まってくるでしょう。東京もそういうような感じなのね。だから、東京の顔はどんどん消えていく。
北原 祖父母の代から、生まれも育ちも東京の真ん中という人は少なくなったでしょうね。第一、「東京」が、なくなってきているんですもの。
荒木 難しい。でも、やるんだったら最後にやりたい。すごくセンチメンタルというか、「エモーショナルな顔が消えていくというのが東京の顔である」っていうのにはできるだけしたくないの。「あなた、いい顔忘れちゃったね」って、それを思い出させるようなのにしたい。本人が持ってるものを気づかせるというのをやってるわけ、地方に行ってもね。でも、最初は風土とかが顔をつくっていく、変えていくんだと思ってたんですよ。残留孤児見ると、向こうの顔っぽいってあるし。ところが違うというのが、最近わかってきた。隣に愛し愛される人がいると、いい顔になるってことがずうっと撮ってきてわかってきたの。だから今は、一人より、二人だったりの写真を撮ることが多くなってきましたね。
池内 顔に全部出るわけですね。
荒木 でもね、あたしが二十二、三で電通に入って、暇つぶしに三時ごろ銀座に出てぶらぶらしてると、四十、五十の女たちがギンギンに化粧して、着物をピシーッと着て、歩いていたの。これが最高にいいのよ。女在感があって。あのころの銀座は、レッドカーペット敷いてもいいような舞台だったね。だってみんな、「一人で生きてるわ!」って、コワいような感じで。
池内 あのころだったら、そうでしょうね。
荒木 今、銀座にも魅力的な女はいませんよ。デパ地下の特製バウムクーヘン買いに並ぶようなやつらにいるはずないじゃない(笑い)。
池内 今、みんな、お人形さんのような顔でしょう。
荒木 人形つうと、喜んじゃうから。
北原 プチ整形というのもある。「二重に」とかね。
荒木 韓国なんて、今、女は五種類くらいの顔ですよ。美容整形を化粧と同じに考えてるから、みんな同じ顔。しかし、ほんと銀座のマダムも、女在感がなくなったな。文学者がマダムを殺しちゃったんだな、「いい短歌詠むねえ」とか、おだててさ(笑い)。
荒木経惟×北原以子×池内紀『銀座百点2010・2』
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