至福の一夜
彼女は刻みを入れた材木[独木梯]を上って私を三階の脱穀場へと丁重に案内してくれました。そこにある戸のついていない納屋で私は眠りました。
その構造によってここが穀物倉庫であることが分かりました。日中の暖かさの後の身を切るような冷気はまさに万能薬でした。一面雪をかぶり、そこに生えているマツが青みを帯びて暗い感じがする谷の向うに真っ赤な夕陽が沈んだり、薄いバラ色の朝陽が昇るのを見ることができました。戸外での至福の一夜でした。このように私たちを温かく迎えてくれた人々は、そのもてなしに対する報酬を受け取ろうとしませんでした。もし[平]屋根の上、つまり客間が空いておれば、評判のよい旅人ならだれでも勝手に使ってよいことになっているのです。幸い、私は針や鋏、そして糸巻きに巻いたいろんな色の絹糸をもっていましたので、あちこちで多くの女性の心をつかみ、喜ばせることができました。
イザベラ・バード『極東の旅2』平凡社
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