Ronly Honly Bing
パパがギリシャのアテネに生まれたのと同じ年に、地球の反対側のテキサス州オークウッドでも、ある男の子が産声をあげた。彼の名はRH・ビングといった。いや、これは誤植ではない。頭文字のあいだに点を入れそこねたわけではないのだ。
このRとHは彼の名前の頭文字ではない。これがファーストネームなのである。発音をできるだけ近い文字にすれば「アーエイチ」となる。話をさかのぼれば、かつてオークランドの教育長を勤め、後年は農場を経営していたビングの父親が、ルパート・ヘンリーという名前だった。よくあるように、彼は息子をルパート・ヘンリー・ジュニアと名づけたがった。しかし彼の妻は、その名前の響きがテキサスの少年には英国的すぎると思った。そこで二人はRHで妥協したわけである。いくぶん年のいった読者なら覚えているかもしれないが、<<ダラス>>というテレビドラマでもJRという名前の永遠の悪党がいた。テキサスでは頭文字の二つ重ねがファーストネームとしてふつうに通用してしまうのだろうか。もちろん、この変わった名前のおかげで混乱はあとを絶たず、それにまつわる無数の逸話が生まれた。たとえばビングがウィスコンシン大学の教授に就任したとき、大学側から名札に何と記載すればよいかと聞かれた。真っ正直なビングは、自分の名前をそのとおりに伝えた。「Rのみ(オンリー)、Hのみ(オンリー)、そしてビングです」。そして新しいオフィスに着いたとき、その入口のわきには、こんな名札がかかっていた――「Ronly Honly Bing」。
ジョージ・G・スピーロ『ポアンカレ予想』早川書房2007年
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