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2009.09.07

HとN

インフルエンザ・ウイルスが(ウイルスにとって)よくできているところは、外壁の突起にある。これが入れ替わるのである。

 もう五〇年ほど前になろうか、日本の福見秀雄先生が、外部抗原(ほぼ蛋白質と考えてよいだろう)は八種類あって、ある流行ではやったタイプは、流行の後に生き残って、そのタイプの免疫を持つ世代がほぼ死滅した時に流行の主役になるという説を唱えられた。この考えは基本的に正しいと思う。ただ、数は八種類ではなくて、ずっと多い。

 外壁の抗原だけでも、HとNの二種類の組み合わせになっている。H抗原が一六種類、N抗原が九種類で、組み合わせの数は一四四であるが、実際に実現しているのはその三分の二ぐらいだそうである。Hはhemagglutinine(ヘマグルチニン、凝血素)の頭文字である。血液を凝集させるのは、赤血球の表面のレセプター(受容素とでもいうか)と結合するからであるが、このようにヒトの細胞表面の共通のレセプターと結合するウイルス側の物質である。Nはneuraminidase(ノイラミニダーゼとドイツ語読みする習慣である)の頭文字で、これは切断酵素である。感染細胞の中で新しく作ったウイルスを細胞の表面から切断して放つために必要な酵素である。

 これらは、本来ヒトの細胞に何らか必要なものを取り込んだり、排泄するための装置であって、それをウイルスがうまく利用しているのであろう。

中井久夫『臨床瑣談 続』みすず書房2009年

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