like me
特別な関心もなく次期大統領のオバマの演説を聴いていたら、あるところで微苦笑にさそわれた。
娘たちに贈ると約束した飼犬についての言葉だったが、彼はその箇所でこう言っている。娘の一人のアレルギー問題がなければ確実に選んだであろう犬は、「Mutts」だったろうと言ったのだ。
この言葉は、雑種の犬、駄犬、野良犬を意味するらしい。そして若きアメリカの次期大統領は、これにつづけて、「ボクのような」(like me)と言ったのだった。
演説はやはり上手い、と私も思うしかなかった。「雑種」だけであったら問題発言になったかもしれないのに、「ライク・ミー」とつづけたことで失言にならなかったのだ。それもウソを言ったのではなくてホントを言うことで中和したのだから、レトリックとしても上出来だと思った。レトリックの基本は、不快な思いにさせないで聴衆を引きつけるところにあるのです。
ただし私が関心を持ったのは、レトリックの妙味よりも、「ボクのような雑種」という言葉のほうだった。
塩野七生/雑種の時代『文藝春秋2009新年特別号』
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