遊びの先の痛み
ジョーラは弟の倒れたところに駆け寄った。泥と砂利と石と氷の塊が手を離れたときにはもう後悔していた。だから、弟の名を呼んだのだ。自分が放った雪玉をよけてくれることを願って。アルカージーはそうするかわりに振り向いた。その拍子にまともに顔にあたってしまった。
助けようと思ってしたことが、悪意に満ちた陽動作戦になってしまった。倒れている弟に近づくと、雪の上に血が見えた。ジョーラは気分が悪くなった。こんなことを自分はしてしまったのだ。自分たちのゲームを――なにより愉しんできたゲームを――どうしようもなくひどいものにしてしまったのだ。どうして弟に勝たせてやることができなかったものか。明日はまた勝つのに。その次の日もまたその次の日も。ジョーラは自分を恥じた。
雪の上に膝をついて弟の肩に手をかけた。アルカージーはその手を振り払い、涙にあふれた赤い眼でジョーラを見上げた。口から血を流しながら。獰猛な獣のように。何も言わなかった。怒りに顔がこわばっていた。どこかしら頼りなげに立ち上がった。
「アルカージー?」
返事のかわりに、アルカージーは口を開いて、犬の吠え声のような叫び声をあげた。ジョーラに見えたのは泥で汚れた歯だけだった。アルカージーは兄に背を向けると、いきなり走り出した。
「アルカージー、待て!」
アルカージーは待たなかった。立ち止まりもしなかった。兄の謝りのことばなど聞きたくもなかった。できるだけ速く走った。前歯にできた隙間を舌で探り、見つかると、舌の先で歯茎に触れた。兄の顔などもう二度と見たくなかった。
トム・ロブ・スミス『チャイルド44』新潮文庫2008年
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