外務省の語学力
佐藤氏によると、外交官にとって最低限求められる能力は、語学力と社交性だという。言葉が出来なくては、海外の知的な人々には相手にされず、人脈も築けない。したがって、良質の情報を得ることも出来なくなる。最近の外務省は、その基礎的能力であるはずの語学力がガタ落ちだというのだ。
佐藤 「たとえば日本の外務省にはロシア語を使う職員が二百人弱いると思いますが、そのうち、辞書を引きながらロシアの新聞の社説を読めるのは二割程度。辞書を使わないで読めるのは五~六人に過ぎません。多くは繁華街のロシアバーでオネエちゃんをからかう程度のロシア語力しかないというのが実態です。
語学力が落ちた理由は二つあって、ひとつは田中真紀子騒動ですね。田中真紀子がドイツの外相と会ったときに、問題発言があった。彼女は『私、そんなこと言ってないよ。あんた、ちゃんと訳したの』と通訳(外務官僚)のせいにした。そのとき外務省の幹部は通訳を守らなかったのです。あれ以降、だれもが語学に熱心でなくなった。語学力を買われて通訳をやらされたために、責任をとらされては堪らないと考えたのです。
もう一つは平成十二年を最期に外交官試験がなくなったことです。外交官試験は語学が非常に難しかったのですが、それが廃止されて以降、TOEFLで六百点を取れないようなキャリアが入ってくるようになった。
平均的に見ると、日本の外務官僚の語学は、日本の進学校の高校生程度の実力しかない。教養、見識は相手国の中学生程度と言っていいでしょう。その上、国際法などの専門知識という点でも、非常に見劣りがします。
なぜなら、日本は専門教育が諸外国に比べて、圧倒的に乏しいからです。入省後、わずか二~三年の研修期間に受けただけの教育で、六十三歳で退職するまで食いつないでいくという間抜けな態勢を取っているのは、主要国で日本だけです。外交の先進国、イギリスでもイスラエルでもロシアでも、十年に一度くらい、長いときは三年くらいの中間研修をして鍛えている」
どうして日本だけがこんな貧しい教育システムを採用しているのか。実はそこにも学歴エリート信仰の弊害があった。
佐藤 「試験によって選別されたエリートだから、特別に教育を受ける必要はない。すべて自分で独学すれば他人に勝ることなどたやすい、という全くの虚構が信じられているのです」
保阪正康(ノンフィクション作家)×高橋洋一(東洋大学教授・元内閣参事官)・佐藤優(起訴休職外務事務官・作家)・岩瀬達哉(ジャーナリスト/年金業務・社会保険庁監視委員会委員)/新・官僚亡国論『文藝春秋2008・11』
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