ディア・フレンド
鶴見 いまの日本政府も腐っているけどね(笑)。ただ、潰すだけの力が日本社会の中にないんですよ。
鶴見 そのなかで日本に早めに戻ったのがジョン万次郎。死を賭して帰ってきた。鎖国だから、入国すれば首を切られて当たり前なんだけど、お母さんに会いたい一心で。
彼は偉い人ですよ。何となく私は、畏友小田実が、ジョン万次郎と肩を並べられる人間だという気がしている。
どうしてこんなことを言うかというと、ジョン万次郎と小田を、百五十年挟んで並べてみると、私の歴史感覚から見て、小田のやったことは非常に万次郎に似ている。
後年万次郎が、自分を救ってくれた恩人ホイットフィールドに、最後に出した手紙の最初の一行が「ディア・フレンド」。これが書けるというのが重要です。つまり、この人は自分の命の恩人なんだよ。だけど、通っていた教会が白人でない万次郎を拒否したとき、自分もその教会をやめてしまうような人。「ディア・フレンド」なんだよ。
小田の態度は、それに似たところがあるね。あんな不平等な安保条約のなかでも、小田の目指したものはそういうものだった。
中島 同じ巻で、開国するかどうかというときに、幕府の諮問に諸大名が答えていて、「どうぞよろしく」「右に同じです」なんて返答をしていますね。きちんと主張している大名ももちろんいるのですが。
鶴見 それはね、坂本龍馬や高杉晋作のように、薩摩、長州、土佐にはほんとうの意味でのエリートがいたんです。それが結局全体を引っ張って、一方幕府は腐っていく。結局腐っているものが潰れたのだというのは、葦津珍彦の考えだね。
鶴見俊輔(評論家)×中島岳志(北海道大学准教授)/ちくま学芸文庫「日本の百年」完結記念 鶴見俊輔インタビュー 近代をつくった幕末明治の日本人『ちくま2008・9』
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