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2008.07.02

菊の花

人にはつらい日々の思い出がある。

 個人的にはイボ痔の手術がそれになるか。記憶は細かい。手術前に脊椎にキシロカインを打たれた感触も覚えている。
 その恐怖の記憶も術後の痛みには敵わない。
 イボ痔はお尻の菊の花にできる静脈瘤と思えばいい。それを切除するのだが、切った後は縫合しない。
 神経が一番密集する部位が切られて赤剥けのまま放置されるのだ。
 身じろぐだけで頭の天辺まで激痛が走る。呼吸するだけでもずきんとくる。廊下を歩く足音も響く。
 そんな痛みの頂上で医師が下剤を飲ませる。普通どおり排便してください。
 腹が鳴り出せばトイレに行かなくてはならない。
 四つん這いになれば痛くなさそうだったが、やってみたらそっちの方がはるかに痛みは酷かった。
 トイレには鉄棒が嵌っていて、それが苦痛で身悶えするときに摑まる棒なのだと初めて知った。
 少なくとも二日間は生きた心地もなかった。
 しかし今になるとそれも懐かしい体験に思えてくる。怪我をした時もあの痛さよりもマシと思ったりする。

高山正之/二日間の痛み 変見自在304『週刊新潮2008.7.3』

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