石油文明
僕は常々、文科系の人が書かない大切なことがいくつかあると思っています。そのひとつが、環境問題に関しては、アメリカとは何かいうことを考えざるをえないということです。実は環境問題とはアメリカの問題なのです。つまりアメリカ文明の問題です。簡単に言えばアメリカ文明とは石油文明でせう。古代文明は木材文明で、産業革命時のイギリスは石炭文明ですね。そしてその後にアメリカが石油文明として登場するのだけれども、一般にはそういう定義はされていませんよね。
1901年にテキサスから大量の石油が出て、1903年にはフォードの大衆車のアイデアが登場した。アメリカはそれ以来、石油文明にどっぷり浸かってきました。普通に考えたら、ジョン・ウェインの西部劇の世界とニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンとはまったくつながらないですよ。つながる理由が何かと言えば、石油なのです。
石油に対して、20世紀を通してもっともセンシティブだったのはアメリカです。たとえば、F・ルーズベルト大統領がサウジアラビア国王と会談したのは1945年辺りのことです。ルーズベルトは体が弱かったので、あまり外国には行っていないのですが、それでもサウジアラビアには行った。僕が生まれたのは1930年代の終わりですが、30年代前半にはアメリカはサウジアラビアの石油を調査し始めいた。当時すでにアメリカは将来の石油需要を見越していたとうことです。ですから戦後60年間のサウジアラビアとの関係というのが、ルーズベルトのときにはできていた。
石油問題に関しては、アメリカが世界の中で最も敏感で、ヨーロッパはそれより鈍かった。日本のほうがさらに鈍かった。そして最も鈍かったのが、古代文明を作った中国でありインドだった。文明というのは石油なしでも作れるという考えが頭にあった順に鈍かったということです。
養老孟司×池田清彦『本当の環境問題』新潮社2008年
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