20人との握手
「諸君の上司にはバカがいるかもしれん。意見を理解してもらえないときは、遠慮なく大臣室に駆け込め。オレが聞いてやる」
1964年の4月、大蔵省への新入生を前にしてこう訓示したのは、田中角栄大臣である。後ろで秘書課長がにが笑いをしていた。
訓示が終わると、1列に並んで起立しているわれわれのところにつかつかと歩み寄り、一人一人の名を呼びながら握手を始めた。メモなしに、20人の名をすべて間違いなく呼んだのである。
あとで知ったことだが、大蔵大臣就任時の挨拶でも、「大臣室に駆け込んでよろしい」と言っていたらしい。たぶん、他のところでも似たようなことを言っていたのだろう。だから、われわれが特別扱いされたわけではない。しかし、突然こう言われた者には、効果絶大だ。
野口悠紀雄/戦時体制いまだ終わらず 連載14回 公共事業の時代が始まる『週刊新潮2006.11.23』
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