鏡、北上まで10年
堺屋 野村総合研究所の調査によると、戦後興った新産業の業態が七十四あるそうですが、そのうちの五十六か五十七は大阪を中心とする関西から興ってるんです。
佐治 戦前入れたらもっとになるね。
堺屋 なんで関西からそういう新産業が興るか、私、あるとき新産業を興した人々をインタビューして回ったことがあるんです。私と同じ時代に同じことを考えた人は東京にもいた。
ところが、東京ではまずマーケットがつかない。たとえばプレハブ住宅を初めて考えた人は、東西両方で売り出したんです。東京で客がつかない、ところが、大阪ではおっちょこちょいが買いよるわけです。
佐治 うちの商品でも、新しい商品出して、初めてそれを育てようと食いついてくれるのは関西の問屋さんです。東京ではなかなかそうはいかない。
堺屋 これが大阪のおもしろいところです。
開高 私の知人の助平な小説家、これが言うのには、ラブホテルに鏡がついた、それでその鏡で楽しんだ、これが東京へ移ってくるのに十年かかってると言うんです。
味覚、嗅覚、その他いっさい、官能、これに基礎を置いた商売とか、産業とか、フィーリングとか、シンキングというのは、だいたい大阪を中心として西日本が多いんです。
なぜかというと、東京のような見栄がない、なりふりかまわん、同じ人間やないか、こうしたら楽しいやないか、深まるやないかというところから出発するんで、東京の人は、なるほどとは頭で思うんだが、一歩踏み出すということができない。
ラブホテルは、入っていくとピンカラポーンと音がするのは、東京も、大阪も同じなんですが、入口、出口がハチの巣みたいにいくつもつくってあって、客と客がすれ違わないようにしてある。まだはばかって濡れ事をやってるんです。
ところが、これが大阪も十三あたりにくると、はなはだあけっぴろげになって、ラブホテルにくるやつは、待ってる順番も歯医者の待合室みたいなもので(笑)、出てくるやつも、一件終わったらけろっとした顔してて、「ほな花ちゃんいこかぁ」というような調子。お次さんどうぞというので、あけすけでやっとる。ここに基本的なえらい違いがあるんです。
堺屋太一×佐治敬三/いつまでも東京の風下に立ってられまへん『開高健、対談集 もっと笑いを!』潮出版社1990年
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