寡黙な禁欲性
このベックの禁欲性は、その髪型や服装の単調さにもよく出ている。クラプトンはこの40年間に休みなくヘアスタイルを変え、サイケデリックな衣装からシックなスーツまでを派手に着替えてきた。
彼がそのたびごとにイメージチェンジを図っているとすれば、ベックは彼とはまさに対照的なところに立っている。馬のように長い顔立ちを、いかにも無頓着に伸びたといった髪が覆っている。着るものは洗いざらしのジーンズにTシャツ、上に何かを羽織ることがあったとしてもせいぜいフリース・ジャケット程度。舞台ではしばしばうつむき加減で通し、ただひたすらギターを弾くことに徹しているかのようだ。観客にむかって自己主張を大声で叫ぶこともないし、ミック・ジャガーのような公序良俗への挑発からも遠い。だが表面から窺われるこうした寡黙な禁欲性が、実のところ突発的な暴力や攻撃性の表出と表裏の関係にあることを、われわれは知っている。気に染まないことがあると、フイとその場を降りて二度と戻ってこない。ベックが体現している非社交的な側面は、彼のギター演奏が見せる語彙の豊かさとは裏腹に、この人物をブリティッシュロック界で神話化することに貢献した。
四方田犬彦/音楽のアマチュア 8ジェフ・ベック『一冊の本2006・6』朝日新聞社
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