年寄りにはいい仕事
「なるべく細く、同じ太さになるようにするんです」。佐藤サクさん(78)は中指の爪の先に青苧(あおそ)と呼ばれる繊維を乗せ、裂いていく。一本一本が髪の毛ほどの太さになるまで、作業は続く。
佐藤さんは糸作りの名人だ。越後上布の第一歩は、糸作りから始まる。糸の原料は苧麻(ちょま)という多年草。カラムシ、イラクサとも呼ぶ。韓国の伝統衣装、チマチョゴリも苧麻から作る。以前は越後でも栽培していたが、上杉景勝が会津に移ってから会津藩で栽培するようになったといわれている。越後上布は今は福島県昭和村で作った青苧を使っている。
佐藤さんの手は休みなく動く。二十センチほどに裂いた糸を一本一本、撚っては結ぶ。言葉では簡単だが、実に細かい作業だ。ニ本の糸をつないだはずなのに、結び目などどこにあるのかわからない。太い部分は歯でかんでならしているのだ。驚嘆していると「年寄りにはいい仕事ですよ。音はしないし散らからないし」と事もなげに言う。だがよく見てみると、佐藤さんの指先は長年の摩擦で平につぶれていた。
越後上布『THE NIKKEI MAGAZINE2006・3』
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