中高年に相性がいい″萌え″
二〇〇四年の秋に「萌えの研究、というテーマで何か書いてくれませんか」という提案があった時、僕は核問題をテーマにしたノンフィクションを書いていたということもあって「何を言い出すんだろう」と思ったものである。その背後には、これまで述べてきたような″萌え″に対する強い違和感があった。
しかし、時がたつにつれて「オレは萌えには借りがあるのだ」と感じるようになっていった。そしてしだいに、自分なりに″萌え″の世界と決着をつけたい、と考えるようになったのである。
そんなわけでおよそ一年の間、萌えの大海にまみれた。
よく知らない世界なのでおよそ見当外れの取材がつづいたりしたが、それもまたノンフィクションの常道で、そうした行為を繰り返すうちに少しずつ″萌え″の本質に近づいていく。それは人を活性化し、同時に深く癒すものだった。僕も四十四歳になりいささか現実の女性との恋愛もわずらわしくなっているので、二次元キャラクターとの交流はとても刺激的だった。もっとも、若い人にはまず現実の女性との恋愛を推奨する。むしろ″萌え″は中高年に相性がいいのではないかと思う。(中略)
言葉には寿命がある。″萌え″はもともと、植物などの命がむくむくと湧き出ずることを意味する古い言葉で、もうとうに寿命が尽きたと思っていた。だが、今、新たな命を吹きこまれて活き活きと動き回っている。僕自身は″消える″という現象に何かと縁深いモノカキなのであるが、″萌え″という言葉はしばらくは消えていきそうにない。
大泉実成(ノンフィクションライター)/「萌え」ってなに?『本 読書人の雑誌12月号』講談社2005年
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