120円のコーヒー代
1970年(昭和45年)9月、今は亡き渋谷駅前の"名曲喫茶"『ランプル』。
少し遅れてきた彼女は、「後で読んでね」とテーブルの上に手紙を置いて、逃げるように立ち去った。20歳になったばかりの筆者は、振られたのである。すぐに席を立って追いかけたが、レジでお金を払っているうちに、彼女は渋谷駅前の人混みに紛れてしまった。
それから30年、彼女とは会っていない。
長いことトレンディ・ドラマを見てきた今なら、「お客さん、お金!」と呼ぶ店員を振り払うようにして外に飛び出し、100メートルほど(かっこよく)走った後に彼女に追いつき、駅の人混みも何のその、「でも僕はあなたが好きなんです!」とか呼びかける、最高の見せ場を作れたものを。
しかしその時筆者はポケットから財布を取り出し、お釣りが出ないように気を遣ったりしながら、コーヒー代を払っていたのだった。
当時の喫茶店のコーヒー代は、120円。そうか、あのとき払ったのは120円ぐらいのお金だったのか。まだまだだったなあ、20歳の俺。
高橋孝輝『値段が語る、僕たちの昭和史』主婦の友社2001年
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