息子がみた男女関係
ところが、僕がプロになってからも応援してくれた母が、次第に困ったことになってきた。アルコールに酔って、僕が出演している店に乱入しては「賢作、愛してる! 息子の演奏を聴きにきたんだ!」などと大声で叫んで、予約席に勝手に座ってしまって。
この頃の母はアルコール依存症でした。台所で飲んでいるうちに。次第に深酒になっていった。それだけ、母は孤独で、捌け口がなかったのでしょう。理由は分かっているんです。引き金は老人介護問題です。(中略)
おふくろは、父が浮気していることを知っていました。これが僕の思春期のことだったら別の反応でしたでしょうが、僕はすでに20代後半になっていましたから、父と佐野さんには何の反発もなかった。
むしろ、僕は佐野さんの作品が好きで、とても尊敬していました。だから、佐野さんにお会いしても、「ファンです」なんてね。世間的な常識からいえば「親父の愛人と、なぜ握手しているのか」ということになる。おふくろからは、「こういうシチュエーションのときは、息子は母親の側に立つものよ」と、よく責められました。でも、僕は素直な気持ちとして、どちら側にもつけなかったんです。「世間的な図式でいえば、女をつくった親父が悪いけれど、そうとばかりは言えないだろう」と。男女関係のことは、息子といえども分かりません。これは当事者同士のことです。
谷川賢作(ピアニスト)/家族のかたち『YomiuriWeekly2005.4.24』
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