正解は一個
阿川 羽生さんの手を震わせたという逸話が残っていますけど、ホント?
渡辺 あ、ホントですよ。五局目で、事実上羽生さんの勝ちが決まって、でも、将棋は僕が投了するまで続くんです。その最後の五手ぐらいの決め手のとき、羽生さんが緊張して手が震えて指せなかったんです。
阿川 それを見てどう思いましたか。
渡辺 羽生さんが震えるシーンを初めて見たんですけど、「あ、もう僕は負けるんだなあ。向こうは勝ちを確信してるなあ」と思った。不思議なもんで、始まる前は一番入れれば上出来と思ってたんですけど、いざ二勝二敗になって負けると悔しいもんでしたね。
阿川 敗因は何だと思いましたか。
渡辺 まあ、やっぱり実力が足りなかったんですね。
阿川 勝ち負けに強い、弱いは何パーセントぐらい関わってきますか?
渡辺 最後一分将棋になったときは、やっぱり人間読むのに限界がありますから。一分だと、羽生さんでも間違えることがあるんです。
阿川 ほお。焦っちゃうの?
渡辺 焦っちゃうし、やっぱり時間限られてると、指したい手が三つぐらい見えたときに、それを一分以内で決めるのは無理なんですよ。
阿川 正解は一個しかないんですか。
渡辺 常に一個しかないんですよ。ただ三つあって、そのうち勝ちは一つ、負けは二つということはよくあるんですよ、局面で。そのどれを選ぶかは運ということがあるんですよね。「指運」というんですけどね、それはそのときの運というかね、日頃の行いが、ハハハ。
渡辺明(棋士)/小さい頃からの目標を達成して、喜びで頭が真っ白になってしまった/阿川佐和子のこの人に会いたい『週刊文春2005.2.10』
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