一覧表を好む男
彼は自分のことを全部基本的に受身形で言うんですよ。「させられた」と。ただ、させる主体が誰なのか、宮崎勤にそうさせたのは何かっていうと、そこはブランクなんです。ある時期からネズミ人間とか言ってるんですけど、まあそれはブランクの中にたまたま埋められた言葉にすぎなくて、自分の行動をすべて受身の形で話していく。
それを僕自身、主体性がないとか責任感がないという古い言葉で言ってしまってた時期もあったんですが、その抜けてる感じというのが非常に不思議なんですね。
もちろん彼のやった行為時代はまったく肯定のしようがないんだけど、ただ吉本さんがおっしゃったように、その抜けてる感じというものが、彼個別の病理でなはくて、もう少し、いいとか悪いとかとはべつの次元でこちら側に戻ってきてしまっている問題なんだなという気がするんです。
もう一つ、宮崎勤の言葉には特徴があって、それはあるものを全部リストにしていくんです。たとえば自分の好きなアニメ・ソングの一覧表とか、それから最近は、アムラーとかシノラーとか、そういうような言葉の類似語にはどういうものがあるかリストアップしてくれとか。そんなもの俺に頼むなと思ってるんですけどね(笑)。それからちょっとくらっときたのが、ご両親に宛てたやつで、拘置所の面会の待合室のところに売店があるんですけど、そこで売っているお菓子の一覧表というのをずらっと書いてきたりとか。
彼が多少意思表示をするようになったのは、実は死刑判決が下りる直前ぐらいからなんです。それまでは弁護士にさえ多くのことを語らなかった。それ以前に彼が家族に出した手紙などは、ほとんど一覧表で、それも無意味―つまりどういう意味か分からない。アニメ・ソングの一覧表、CMソングの一覧表。
吉本隆明×大塚英志『だいたいで、いいじゃない。』文芸春秋2000年
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