老けたのはお前ではない
老犬 豊岡史朗
海から戻ると戸口の前に
犬のタローがうずくまっている
やさしい眼でわたしをみつめて
「タロー」 と呼ぶと
うれしそうにしっ尾の先をちいさく振るが
なぜか動こうとしない
いつもなら元気よく飛びついてくるのに
病気なのだろうか
心配になって傍らに寄り添い
あたまやのどを撫でているとあたたかいものがひたひた打ち寄せ
わたしのなかに潮のようにみちてくる
(だいじょうぶ かれはただ老いただけなのだ)
いそいで餌をつくらなければ
と冷蔵庫の扉に手をかけ
ふと思う
わたしが仔犬のタローを飼いはじめたのは
たしか小学校六年生の夏だから・・・・・・
犬が三十年以上生きたという話は
まだ聞いたことがない
わたしは気づく
いまわたしが夢のなかにいることに
なつかしさとさびしさのおおきな波が
枕の岸にどっと押し寄せ
思わずくちびるから微笑が洩れた
(タロー 老けたのはお前ではない)
詩の薬箱『YomiuriWeekly2004.11.14』
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