僕は太宰が大嫌い
瀬戸内 三島さんが美輪さんに惚れていたということだけは知っていたけれども。
美輪 「君は九十五パーセントの長所と五パーセントの短所がある。しかし、そのたった五パーセントの欠点は、他の九十五パーセントの長所を木っ端みじんに駄目にしてあまりあるほどの短所である」と言うから、「へえ、そんな凄まじい短所ってにはなに?」って聞くと、「俺に惚れないことだ」とのたまいました(笑)。
夜中に電話してくるんですよ。「おれだ、おれだ」って。「おれって、どのおれ」と聞くと、「おまえが夢中になったおれの声を忘れたのか」と。「私が夢中になる男は五万といるのよ」と言ったら、ガチャンと切っちゃった。また電話がかかってきて、「この声がわからないなんて何て薄情なやつだ」「私は薄情で有名なの」と切ると、また、またかけてきて名前を言わないわけ。それで、「ばかやろう」と言って、がちゃんと切ったらまた電話がかかってきたので切ろうとしたら、あわてて「三島です」(笑)。「おれはねえ、今まで、親にだってばかやろうと言われたことはないんだよ」って言うから、「ごめんなさい、私は惚れた男には、ばかやろうという癖があるの」と言ったら、「じゃ、僕もばかやろうって呼ばれたい、いいよ。はいどうぞ」って(笑)。
瀬戸内 ほんと、おかしいわね(笑)。
美輪 あの人はほんとうに冗談ばっかり言ってました。
瀬戸内 おもしろい話が次々出てくるわね。だけど、あの人、好き嫌いははっきりしていて、太宰が嫌いだったでしょ。
私の下連雀の下宿の二、3軒横に太宰治のお墓と森鴎外のお墓がある禅林寺があったんです。それで、三島さんに手紙で、「毎日暇だから禅林寺の森鴎外と太宰の墓に行きます。太宰のお墓には花やお酒がいっぱい置いてあるけれど、森鴎外のところは何もありません」と書いたのね。そうしたら、返事が来て、「僕は太宰は大嫌いだから、太宰におしりを向けて、森鴎外先生を、僕にかわって拝んでください」って。おかしいの(笑)。そういう冗談が言えるから、とても楽しかったですよ。
瀬戸内寂聴×美輪明宏『ぴんぽんぱん ふたり話』集英社2003年
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