芸術家は自殺していいという主義なんです
美輪 あの人は、受動的に与えられた貧相な肉体がコンプレックスになっていたわけでしょう。だから、筋肉隆々の体を自前で調達したんだけれど、年をとると、せっかく自分が努力してつくり上げた肉体が無残に崩れていく。それは許せないことだった。だから、自分が作り上げた体が完全な形として維持できている間に、ストップモーションをかけたんですよ。
瀬戸内 その話は初めて聞いたな。うーん、わかる、わかる。
美輪 そのことがわかったのは、私が『黒蜥蜴』を演ったからなんですね。水谷八重子さん(初代)が演ってらしたものだから二度も依頼を断ったんですが、三島さんはどうしても、と退かないんですよ。あの人はプライドの高い方だから、一度断られたら二度と頼まない人なのに、三度も頼んでこられた。それには、理由があったんですね。(中略)
「とにかく台詞を吟味してごらん。そこに答えが書いてあるから」と言われて、もらった三島全集を読むと、私というより、三島さんそのものでした。『黒蜥蜴』は、主人公が美しいまま、しかも明智との恋愛が完全に燃え上がった頂点で、自分の命を絶つという物語なんです。それで、私はやばいと思って、三島さんに、「あなたが何を言おうとしたかがわかったからお受けしましょう」と言ったんです。
瀬戸内 そういう見方をしたのは初めてですね。すごくおもしろい。これは出家者としては言ってはいけないかもしれないけれど、私は芸術家は自殺していいという主義なんですよ。
美輪 あらまあ、なんたる不道徳(笑)。
瀬戸内 私自身は死に損ねてこの年になって、もうみっともないだけだからしませんけれども、川端さんの自殺も許せると思うのね。芸術家は大体、悪い人間なんだから、自殺したっていいんですよ。どうせ、地獄に行くんだから(笑)。
三島さんには、五十まで生きてもらいたくなかった。亡くなったのはショックだったけれども、三島さんとしてはよかったんじゃないかなと思いましたね。
美輪 そう。今の日本は、三島さんが予言したとおりになってるじゃないですか。
私も、日本はアメリカの文化植民地みたいになると言い続けてきたけれど、三島さんも、日本人の美意識というものが完全に崩れていくことを一番恐れていましたからね。
瀬戸内 最後に自衛隊の市ヶ谷駐屯地で演説するでしょう。みんな、ナンセンスだとすごくばかにして笑いましたよ。でも、三島さんがあの演説で言っていることが全部、今、そのとおりになっているんです。
美輪 だから、三島さんは、今のこの世の中を見なくて幸いでしたよ。
瀬戸内 そうそう。
美輪 見てたら、大変でしたでしょうねえ。
瀬戸内 でも、見通していたね。結局、そのとおりになったんだから。
私は、だから、ああいう死に方をして、そんなに悲惨という気はしないの。普通に死ぬよりは、派手でいいじゃないかと思ってね。あんな派手な人だったからね。実は、日本の作家で、死んでから読まれようと思ったら、心中するか、自殺するしかないんですよ。
瀬戸内寂聴×美輪明宏『ぴんぽんぱん ふたり話』集英社2003年
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