目の前の人の心がどれだけきれいか
瀬戸内 「生まれつき」という言葉がありますね。それこそ生まれつき持って生まれたものはみんな違うんですよ。仏教では三世の思想といって、私たちは今、現世を生きているけれど、振り返れば限りがない過去世が続いている。前には果てしない来世が続いている。その中間にある現世はたかだか百年かそこいらでしょ。
瀬戸内 それなのに人間はそれを思わないで、今の時代、現世だけで勝負しようとするのね。あの人は金持ちの家に生まれたとか、大学出だから彼は教養があるとか、そういうふうな言い方をするでしょう。だから間違っているんですよね。今は貧乏でも、もしかしたら、ついこの間、向うの世界では王侯貴族だったかもしれない。でもこう言ってる私も、昔はそんなこと考えたこともなかったですものね。
美輪 私も。
瀬戸内 私の受けた教育なんていうのは、それこそ「天皇陛下、天皇陛下」というだけで、そういうこと考えたこともなければ、学校で教えてもくれなかったですよね。もっと教育でそういうことを教えるべきだと思います。
美輪 そう、大賛成! ですから、私も講演や講話やコンサートの仕事で全国あちこちへ行って、そのたびにお話しているんです。全世界の教育者や、全世界の保護者たちが、子供を育てるときに、他の人間を見るときの価値観を、目の前にいる人の心がどれだけきれいか、きれいでないか、純度が高いか、低いか、それだけで教えていくべきだって。
みんな、容姿、国籍、年齢、性別、ステータスとか、どういう家に住んでいるとか、車を持っているとか、持っていないとか、ブランドものを持っているとか、そういう目で見えるものだけで人を判断するじゃなくってね。そうすれば、あの方、どこかの社長夫人よとか、どこかの社長さんよ、というのは通じなくなるんですよ。
瀬戸内 通じなくなる、ほんとに。
瀬戸内寂聴×美輪明宏『ぴんぽんぱん ふたり話』集英社2003年
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