泉鏡花文学賞32周年
第1回の受賞者の半村良さんに、市の担当者が電話をかけたときの会話が、いまでも話の種になっている。
「えー、こちらは金沢市ですが」
「はい、はい」
「このたび半村先生の御作品、『産霊山秘録』が鏡花賞にきまりまして」
「ん? 教科書に?」
「はい、鏡花賞です」
「あの小説のどこを教科書に使うの?」
「えー、その、あの、全部です」
「まさか! あの長編を全部なんて、ありえないでしょ。あなた、からかっちゃいけませんよ」
「はあー、あの、鏡花賞の選考委員のかたがたがお選びになりまして」
「教科書の選考委員だって? どういう人たちですか」
「はい、吉行淳之介先生とか、三浦哲郎先生とか、井上靖先生とか、瀬戸内寂聴先生とか・・・・・・」
「えーっ? 吉行さんが教科書の委員をやってるなんて、考えられないな。あなた、ほんとはどこの人?」
「はあ、金沢市役所の者ですが」
鏡花賞と教科書がこんがらがって、話がいっこうに進まない。見かねた吉行さんが電話にでて、ようやく話が通じたものだった。まあ、それくらいマイナーな文学賞だったのである。
五木寛之/新・風に吹かれて『週刊現代2004.12.11』
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