1970年代の転換点
そうしたノンフィクション・ジャンルの潮流を俯瞰するとともに、そこに投影された現代日本人の意識と社会の実像について分析し、一冊の本『人間の事実』(文藝春秋、文春文庫版は二分冊)にまとめた。そこではっきりわかったことの一つは、体験記や手記の類は、戦後長いこと戦争や空襲の体験を記したものが圧倒的に多かったが、一九七〇年代の半ば頃から、戦争体験記の時代が終わり、代わって闘病記の時代が始まったという変化だった。
戦争による混乱の時代が遠のき、経済の高度成長が達成されたのと並行して、日本人の疾病構造が急速に変わり、結核に代わって、がん、心臓病、脳卒中が「三代疾病」と呼ばれるようになり、さらに高血圧症、糖尿病などの慢性病、生活習慣病が急速に増えていった。健康問題が人々の関心事の一位を占めるようになった。そして、健康や医療に関する啓蒙書が書店の一角を占めるようになるとともに、闘病記の類がどんどん出版されるようになったのだ。
闘病記というと、それまで作家や一部の著名人が書いたものだが、時折話題になるくらいだった。しかし、一九七〇年代半ば頃からは、著名人に限らずジャーナリスト、学者、芸術家、タレント、会社員、主婦など様々な立場の人々や家族が書くようになった。私の書庫には、そうした闘病記が一千冊近くある。
柳田邦男『元気が出る患者学』新潮新書2003年
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