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2004.09.02

手塚漫画のキス・シーン

一九四九年に、二十歳の手塚治虫は、『拳銃天使』という西部劇ものを東光堂から描き下ろしている。この中に、主人公と女主人公の軽いキス・シーンを描いた。映画を作品想像の基底においている手塚治虫にとって、外国映画の西部劇に出てくるキス・シーンは、空気を吸うように自然なものだった。だから、何気なく描写したのだが(わざとバタ臭さを出した感はある)、これに対してさっそく、共産党やPTAが噛みついた。「子供に対して道徳的ではない」という理由からである。

 まあ、大人でさえ、人前でキスすることなど滅多になかった時代だし、日本映画にも、そんな場面はほとんど出てこなかった。だから、キス・シーンに過敏に反応した人間がいても、仕方なかった面はある。
 そういえば、僕が本物のキス・シーンを初めてみたのは、小学六年生の時だった。一橋大学のキャンパスに広い林があり、そこも僕らの遊び場であった。偶然、大学生のカップル(昔はアベックと言った)が、抱き合って熱烈なキスを交わしていたのである。僕はびっくりする以前に、「へえ、日本人も、アメリカ人みたいにキスするんだあ!」と、妙な感心をしたことを覚えている。

二階堂黎人/僕らが愛した手塚治虫『本の窓』小学館2004.9・10

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