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2004.09.23

徒弟ランベルト君のお買い物

十三歳の少年の日記が、綴られてから半世紀あまりのちに絵入りの美しい本になった。かつての徒弟ランベルト君は親方のあとをついで、いまは金具職の名人といわれる人。そのバンキさんが知り合いの小学校の女の先生に、「ひょいと子供の時の日記があるという話し」をした。見たいというので見せたところ、ちょっと貸してくれといって持っていき、その女の先生が知り合いの編集者に見せた。これを見た編集者が感激して、出版社に持っていって本になった。

 何でもない少年に記述から、イタリアの職人修行の過程がまざまざと見えてくる。徒弟が不注意から糸鋸の刃を折ったりすると、親方は自分で買わせた。とともにあとでそっと「お客さんのチップだよ」といって返してやる。突き返して自覚させる一方で、ちょっとしたアメを用意している。
 基本の技術を伝えたあとに、「自分の作品」を作らせる。見習の者にとって、それがどんなに興味を深めるか。
 少年は毎日のように使いに行くが、編者の解説が的確に「お使いの効用」を語っている。何でもない雑用のようだが、「やがて自分自身が入っていくはずの職人社会というものを知るための準備」なのだ。
 職人仕事は一人ではできない。多くの職種にまたがった「職人のネットワーク」を持っていなくては仕事ができない。いい仕事をするためには、いいネットワークに入らなくてはならない。親方からいえば徒弟に企業の秘密を教えること。お使いというのは徒弟にとって、いかに大事な仕事かがわかる。
 翌年の五月三十一日は「土ようび」とあるだけで、この日かぎり日記がとだえる。きっと仕事が忙しくなったのだろう。それにもう一つ、編者の注記にあるとおりだ。
「日記というものは、たいていの人がどこかでやめてしまうものではないでしょうか」

池内紀『少年の目―「仕事ばんざい」』『本』講談社2004・9

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