生命観が変った
中山まき子氏は「子どもを持つことは―生命の誕生をめぐる日本人の考え方」と題する論文の中で、明治初期から昭和初期にかけての、日本民俗学の領域でとらえられた生命観が現代の日本人、特に子供を産む世代の人々の間にはもはや見出せないことを指摘している。
日本民俗学が説くところの日本人の生命観は、この世(現世)とあの世(死の世界・異界)とが連続しており、人間は死ぬとあの世へ移動するが、やがて再びこの世へと戻ってくるものであり、この移動が繰返され、循環するものであると考えられてきた。つまり、子供の生命はあの世とこの世を行き交うものと考えられてきた。それに対して現代の日本人は超自然の世界(あの世)を信じなくなり、生命を考える際の空間的世界の概念の幅を縮小させてきているという。生命というものを、この世で肉体が生きる時間の範囲内でのみ認識しているのであり、生命誕生に対する観念の時間軸に幅をかつてより非常に短くしているのだという。このことについて、中山氏は、伝統的な生命観は「円還的認識」であったのに対して、現代のそれは「直線的認識」と呼んでいる。そして、生命が「不連続な個人」の集合体という認識が強くなればなる程、「実の親」と「わが子」との関係を「不連続な個人と個人」を繋げていくものと認識するようになるという。このため、不妊の人々はこのような生命の連続性から断ち切られるがために、強い喪失感や疎外感を持ちやすいと指摘する。
波平恵美子『いのちの文化人類学』新潮選書1996年
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