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2004.08.02

ユーロピアン・ジゴロ

昔、イタリアに来たての私がまだローマに住んでいた頃の友人の一人に、世界的に有名な化粧品会社のオーナー社長(女)の囲われ者がいた。

 南欧風の美男で立居振舞にも品格のある、ローマ大学法学部の学生だった。社長は彼を、ローマに来るたびに連れ出し、音楽会にもオペラにも美術展にも同行させる。社長自身、なかなかの知識人であったらしい。話が面白いと、彼も言っていた。
 ローマ大学卒業後は、もちろんこれもすべて彼女の援助だが、この青年はハーヴァードのロー・スクールに留学する。それから十年後に会ったら、その化粧品会社のヨーロッパ部門のボスになっていた。これは彼の希望ではなくて、彼女がスカウトした結果だ。彼女の眼が確かであった証拠に、彼女の死後にもスゴ腕という評では一致している。私はあるとき、彼にたずねてみたことがある。
「その後もずっと彼女が亡くなるまで?」
「ときどきはね。ボクだと彼女はすべてに安心だったから」
 これが、ユーロピアン・ジゴロです。

塩野七生『人びとのかたち』新潮文庫

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