秀吉の先天性多指症
フロイスがひとつ奇妙な記録を残していた。「(秀吉の)片手には六本の指があった」と記しているのだ。まさかとはじめは信じられなかったが、前田利家が晩年語った回顧録『国祖遺言』の中にも同様の記述があった。「太閤様は、右手のおや指一つ多く六つ御座候」と、こちらは右側に奇形があったことまではっきりかいてある。
整形外科の一分野には「手の外科」という独立した分野がある。わたしは、はたして秀吉に多指症があったかどうかを大学病院のその道の専門家にきいてみた。するとドクターは、つまらぬ質問だと一笑に付すどころか、「秀吉が多指症だった可能性は十分にあり得ます。血の濃い結婚を繰り返すと、多指症になりやすいのです。日本人、中国人、そして朝鮮人、この三つの民族にはことに多指症が多いのです。なかでも母指の脇から一本生えているタイプ(母指の基節骨から分岐する型)がよくみられますよ」と答えるではないか。
さらにつけくわえて、「両側対称性に多指症が発生するのは遺伝関係が濃厚ですし、秀吉のように片側性のものは突然変異を考えたいですね」というコメントまで頂戴した。(中略)
これだけの背景を知ったうえで、もう一度秀吉の肖像画をみなおすと、かれの両手が異様に小さい理由がわかってくる。秀吉は六本目の指を目立たぬようにするため、右手の母指を笏で隠しながら両手を極端に小さく描かせたのだ。さらに健常な左手の母指をこれみよがしに曲げた人さし指の上にのせて突き出している。
篠田達明『モナ・リザは高脂血症だった』新潮新書2003年
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