ビデオ7000本
「彼は欧州勢にビデオで研究し尽くされ、丸裸も同然だったのです」
と指摘するのは、全日本柔道連盟科学研究部スタッフで、山梨大の小山勝弘助教授である。小山助教授は全柔連の山下泰裕理事の命を受け、欧州の五輪代表の強化システムを学ぶため今年2月、ドイツを訪れた。
「ザクセンにある国立スポーツ研究所を紹介され、僅か2日間の滞在でしたが慄然とさせられました。そこには専属スタッフが撮影したビデオが7000本以上あり、映像はデジタル化されていた。試しに、井上康生を入力し、彼の得意技である内股をキーワードに検索をかけると、内股の動作からそこへ入る前のフェイントの動きなどが瞬時に画面に現れました」
その内股も、井上がシドニー五輪金メダル獲得以前、以後で比較することが容易にできた。また、右組み、左組みと対戦相手による動きの違い、試合後半に繰り出す技、ポイントを奪われるパターンとその時間帯など様々なデータが揃っていた。ドイツの五輪代表にはこれをダビングしたDVDが配られていたという。
「こういうシステムはドイツの専売特許ではなく、フランスにもあるのです」
そう言えば、今年6月、フランスでの合宿を終えた井上が珍しく、「欧州は情報が早い。誰かが僕の頭を下げさせる組み手に成功すると、他の選手もすかさず真似してくる」とボヤいていた。井上が敗れた4回戦の相手、オランダのファンデルヘーストもビデオ研究の成果の跡が窺えた。井上は欧州のビデオ包囲網に負けたのだ。
「アテネ五輪」ウラ情報『週刊新潮2004.9.2』
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