3000人の読者
豊崎 何年か前、翻訳文学を出している出版社の方々にお話をうかがう機会があったんです。
豊崎 皆さんのお話で共通していたのは、翻訳文学の核になる読者は三〇〇〇人ほどだろうということ。その三〇〇〇人が買ってくれれば、大丈夫なんだという。なるほどなあと思う一方で、私の好きな作家って、日本人でも三〇〇〇の人だなという気がしたんです。何かしらの動きがあって、それが五〇〇〇になったり一万になったりということはあっても、一〇〇万も売れるような人ではない。そして、その三〇〇〇人は海外文学を読んでいる人たちと重なるんじゃないのかなと。
いま池澤さんがクレスト・ブックスに励まされるとおっしゃいましたが、池澤さんや堀江さんの読者というのは、クレストの読者とかなり重なっていると思うんですよね。
池澤 昔、石川淳さんが、おれは読者三〇〇〇の作家だって威張ってましたよね。
堀江 野口冨士男さんが自分の読者は三〇〇〇だって言ったら、八木義徳さんが、おまえにはそんなにたいくさんいるのかといったという話もありましたけど(笑)。
豊崎 時代がちがうので比べようがないですけど、夏目漱石の初版だって二〇〇〇とかそんなものですよね。でも本当はいまでも、三〇〇〇のしっかりした読者がいれば、作家も書きつづけていけるのではないでしょうか。
池澤夏樹×堀江敏幸×豊崎由美/幸福な読者が見えるシリーズ『波』新潮社
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