ちょっと楽しくなった理由
治療を終えたあと、帰りがけに先生に聞いてみた。「痛さを伝える機械とかないんですか」「ないですね・・・・・・そういうものがあったら治療にもずいぶん役立ちますけどね」
帰り道、僕の頭は「痛さを伝える機械」のことでいっぱいだった。光や音で痛さを伝えるのはどうだろう? 来週、歯医者に行くまでに何か作ってみようか・・・・・・アイデアがひらめいて、試しに簡単な装置を作ってみることにした。手のひらに納まるくらいのボックスに、回転式のボリュームと赤いランプをつけ、ボリュームを回すとランプがだんだん明るく光るという単純な仕掛けである。光だけではわかりにくいかな、とブザーも鳴るようにしてみた。そして、翌週の歯医者の日、恥ずかしながらおもむろに先生に見せてみた。先生も笑いながら早速使ってみましょう、と面白がってくれた。ところが実際に診察台で使ってみると、手元に持った状態だとランプの光が先生からは見えにくいことに気づいた。「他の患者さんにも試してもらいますよ!」と先生が言ってくれたので、機械は置いていくことにした。そしてまた次の週、今度は先生からリクエストがあった。「痛みは、徐々に痛くなる痛みと、突発的にくる痛みの二種類があるので、ボリュームを回すのとは別に、緊急ボタンがあるといいですねえ」
僕は早速二号機を作ることにした。まず、ボリュームの隣に緊急ボタンをつけた。そして、先生からランプが見えやすいように手元のボックスからケーブルを延ばして、診療中は必ずみんなが着けるエプロンの襟元にクリップでランプをつけられるようにした。さらにランプを赤と緑の二つにして、赤いランプは痛みを知らせる用、緑のランプはうがいをしたい時用にし、うがい用のボタンは押し間違えないようにボックスの横につけた。改良の二号機の使い勝手は上々だった。その後先生も積極的に使ってくれて、今もその歯医者では治療に役立っている(らしい)。冗談半分で作った、発明というにはあまりに単純でバカバカしい機械だが、意外と「痛さ」を伝える方法が世の中にないことを考えると、こうした装置も使い途があるかもしれないと思うようになった。そしてこの機械を作ってからというもの、僕自身歯医者へ通うのがちょっと楽しくなったのが、何よりもましてよかったことである。
岩井俊雄「歯医者で痛さを伝える機械」/『i feel』紀伊国屋書店2004.No29
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