贅沢を憎め
熊本大学のキャンパスに英文で刻まれたひとつの石碑が立っている。その中に次のような一節がある。
THE HATRED OF USELESS LUXURY AND EXTRAVAGANCE IN LIFE(日常生活において無用の贅沢と浪費とを憎む精神)
明治27(1984)年に小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)が熊本で行った講演「極東の将来」の中の一節だ。西欧列強の圧力が東洋に強くのしかかっていた当時ではあったが、日本人には科学技術や芸術において西洋人とじゅうぶん競争しえる潜在力があると八雲はみていた。しかし日本人が、古来の簡素で健全な生活を捨て去るとき、その将来は危機にさらられるだろう、というのがこの講演の主旨だ。簡素と善良と素朴を愛する心を八雲はこのときKUMAMOTO SPIRIT(熊本精神)と表現しているが、熊本のみならず、明治の日本の多くの他の地にも同様の精神と生活が息づいていたはずだ。そのことを八雲の胸に刻んだのは、熊本に赴任する前に居た松江での生活と体験だったと思われる。
細川護熙「ことばを旅する」/『週刊文春2004.7.8』
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