ミイラ保険
黒鉄 ぜひお話したいことがありまして。「ミイラ保険」という・・・・・・(笑)。
丸山 それをぜひ伺いましょう。
黒鉄 先生のおっしゃった死の意識、それはよくわかるわけです。理由の一つの財産権の喪失、そのあたりから酒場で思いついたんです。古代人はミイラを造りますね、最近の死に行く老人たちを観察しますと、孫とか周りの人に財産を残そうとします。中にはちょっとひねった人がいて、広大な土地を持っていると、県とか市町に寄付したりなさいますね。よく考えると、死後の世界を信用してないと、これはできないですね。遺言が良い例ですね。ただし、ボディの喪失に対する不安はあるわけです。では一足飛びにミイラにしてあげれば、かなり楽になれると思うんですね。
丸山 ええ、ええ
黒鉄 現代ではミイラ化の現象をアナクロみたいに捉えますが、遺言でやり、孫に財産を残すというのは、ミイラと同じことですね。
丸山 象徴的意味で、ミイラですよね。
黒鉄 これをいっそ保険としまして、五〇歳ぐらいからでもいいですが、功成り名遂げて、財産もたまった、こういう人は「笑い」の対象としても良いサンプルでして、自己喪失に対する不安がまずミイラになる条件でして。しかも強大な財産力がバックにないと、ミイラになれない。そうしますと、もはや立身出世の物語は壊れましたが、ミイラになれる喜びがある。生命保険会社の人が、一年ぐらい前から足繁くやって参りまして、より良きミイラになるためのマニュアルまで指定してくれる。そうすると、死ぬのがわくわくしてくる(笑)。そして晴れて見事なミイラになった暁には、死後計画というのを提出しておきましてね、月に一回は銀座に行きたいとか、保険会社は「熱海はやめてくれ、温暖でちょっと危ない」とか言って、寒いところばかり行くとかね(笑)。
そういう話題でワアワア騒ぎながら、酒場の女性方に「ミイラが運ばれて来たらどうする?」と尋ねますと当然、気味ワルがりますけれど、強力な財力のあるミイラですから、ミイラの膝に手を置いたら一〇万円とかね。それもミイラですから、強く置いてはだめですよ。壊れますから(笑)。口づけまでは許すと言うんですよ、数百万円ぐらいなら、私だってしますよ。ミイラはスルメのようなものですから(笑)。
一方、キスされるミイラのほうですが、その景色を生前イメージすることによって、遺言よりももっと大きな幸せが得られる。ほとんど死後の世界でも生きているに等しい毎日が送れる、ような気がする。
丸山圭三郎×黒鉄ヒロシ『人はなぜ死を恐れるのか」メディアファクトリー1994年
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