過敏性腸症候群(IBS)
慶應義塾大学医学部の日比紀文教授(消化器内科)は、こう話す。「過敏性腸症候群(IBS)は腸管の運動異常が原因なので、下痢だけでなく、便秘、ガス腹などの症状もあります。病院へ来る人はわずかですが、推計では全人口の10%から20%はIBSによるなんらかの便通異常と言われていますから、1200万人から2400万人に達する計算になります」
潰瘍性大腸炎だったら血便が出て、重症になると貧血も起きる。クローン病だと腸内に炎症ができ、体重の減少などを伴う。いずれも腸内に異常が見つかるので、それとわかる。
だがIBSは、腸内に異常が見つからないのに下痢が続く点が、ほかの病気とは決定的に違う。排泄後に腹痛や便意が一度治まり、排泄回数や便の状態が一定でないのも特徴だ。
日比教授によると、IBSで下痢や便秘になる仕組みはこうだ。腸は胃から直腸(肛門)に向け、内容物を順序よく押し出すように動く。ところがIBSだと、腸がけいれんを起こしたような状態になる。腸が激しく動きすぎて内容物の移動が速まり、水分が十分吸収されないまま直腸へ行けば下痢になり、内容物の移動が滞ると便秘になる。(中略)
腸管運動は自律神経を構成する副交感神経の働きによって制御されていることから、異常はストレスなど精神的な要因で起きるとされている。しかし、東邦大医学部付属佐倉病院の鈴木康夫助教授は、「実は、なぜ精神的な要因が腸管運動を妨げるのか、医学的にじゅうぶん解明されていないんです」と言う。「神経が大脳から神経節にスイッチを経て腸に至る過程のうち、神経節と腸の間に謎を解くカギがあるのではないかと研究が進められています。腸内の細菌バランスの異常が原因では、という説もあります」(鈴木助教授)
日比教授も「IBSになる人の多くが子供のころや若いころに急性腸炎にかかった経験を持つことから、急性腸炎によって腸内の細胞などに何らかの異常が残った可能性も指摘されています」と話す。
ただ、いずれにせよIBSは、原因が突き止められていないため、治療法も確立していない。精神的な要因であることから、心療内科が治療することが多く、抗うつ剤や精神安定剤を使った薬物治療のほか、ストレスを和らげるための生活指導やカウンセリングも行われている。
「下痢」と上手に付き合う」/『週刊朝日2004.7.23』
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