おかしいのが面白い
いわゆるいい人ってのはどうも面白くないね。やっぱりおかしなところがある方が面白い。善悪ともに面白い。
この辺はね、農民系と漁民系の両方がいるんですよ。農民系の人は、穏やかで、いや、のんびりはしてないけどね。漁民はもう、一発勝負ですから。だって、魚がこなきゃダメなんだから。来た時にはわーっと捕って、あがりの金をみんなもって町に出て遊んじゃう。家族もそうですよ。映画とか芝居とかは、漁師のおかみさんや子どもさんばかり。魚が来ない時は、ふとんかぶって動かない。体を動かすとお腹へるから、小学生なんか学校休まして、みんな寝てろって戸を閉めてる。そういうふうにやってた。金入るとすぐ使っちゃうから貯金なんてしない。昔はだいたい一発でつかっちゃって、あとは借金したり、踏み倒す。当然、博打は猛烈にやる。
その、寝かしておく方法はね、二宮尊徳がやった。天保の時に桜町という所を二宮尊徳は預かる。桜町代官の仕事です。その時、茄子を食べたら初夏なのに「がぢがぢ」する。茄子っていうのは最初やわらかで、夏を越すと「がぢがぢ」が出てくる。石茄子。ところがこの年は、はじめから石茄子が出てきた。これはいかん。気候異変でね、今年は大飢饉が起こる。木綿の産地だったんだけど、全部抜いて、ひえなんかを播く。そしていよいよ本当に飢饉がやってくる。おじさん、おばあさん、子どもはね、全部寺へ集めて、寺でほとんど寝かしたまんま。お粥をうすくのばしたやつでやっていけるんです。走ると栄養失調でまいっちゃうからね。
だけどこの頃は農業が博打ですからね。いくらまじめにせっせとやってもダメな年は全然ダメ。
杉浦明平/万巻の書と万歩計『独特老人』筑摩書店2001年
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