心臓への貢献
心臓の循環機能を助けるのにいちばん必要なものは、「呼吸」です。
ストローでアイスコーヒーを飲んでいるとき、私たち人間は、どうやってコーヒーを吸っているのでしょうか。胃の中にコーヒーを流し込むわけですが、胃がコーヒーを吸っているのでしょうか。
そうではありません。吸っているのは胸郭です。胸郭が陰圧をつくることによって、コーヒーを吸い上げているのです。
呼吸も同じ原理です。呼吸は胸郭が陰圧になることによって、肺が膨らみ空気を取り入れています。じつは、このとき、空気が吸い込まれているだけでなく、陰圧によって血液も吸い込まれています。正確には「吸う」というよりも、周りの血液が陰圧の部分に吸い寄せられてくるような感じです。要するに、呼吸が体中の血液を、手足の静脈から心臓のほうに還流させる役目を担っているわけです。
この働きを「ソラコ・アブドミナル・ポンム(thoraco abdominal pump)」と言います。ソラコというのは、胸郭。アブドミナルは、腹腔です。胸郭と腹腔がポンプのような現象になって、血液還流を助けているのです。血液循環のポンプは、心臓だけではなく、胸郭と腹腔もポンプの役割を果たしています。
それでは、人工呼吸の場合はどうなのかというと、これは原理がまったく逆になってしまいます。人工呼吸が必要な患者さんには、気管から管を入れて肺の中に空気を送り込みます。この場合は、胸郭の陰圧によって肺が膨らんでいるのではなく、空気を送り込んだ陽圧によって肺を膨らませています。つまり、ソラコ・アブドミナル・ポンプが完全に破綻しているので、血液が帰ってくることができません。
血液が帰ってくることを「静脈還流」と言いますが、人工呼吸をつけているときには、静脈還流が激減することがわかっています。これは、心臓の働き、あるいは血液の循環において不利な状況です。
私たちが無意識に行っている「呼吸」は、単に二酸化炭素と酸素の交換の役割を果たしているだけでなく、体中の血液の流れをよくして、心臓を助ける行為でもあるのです。「心臓」が血液を送りだすポンプだとすれば、「呼吸」は血液を戻すポンプです。この両者がバランスを取りながら働いています。
ですから、心臓の働きをよくするためには、「深呼吸」をすることがとても大切になります。心臓のために何か一つ貢献してあげるとすれば、深呼吸をすることをお薦めします。簡単にできることですから、ぜひ実行してみてください。
南淵明宏『心臓は語る』PHP新書2003年
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