文学者の死・・・三島由紀夫
自殺といえば、三島由紀夫(1925~70)も市ヶ谷の自衛隊駐屯地で割腹自殺してセンセーションを巻き起こしました。彼の割腹自殺についていろんな解釈があって、渋沢龍彦(1928~87)の解釈でいうと、同性愛と自己愛の極致ということになります。
自己愛の人が切りつけてみたくなったりするのと似たところがあったのではないか。それと同性愛的なものが重なったというものです。
それから政治的なというか、社会的に理解する仕方もあって、左翼的なものや民族主義的なものを否定する考え方が大いに盛んになって、それに対して身をもって歯止めをかけたかったという解釈をする人もいます。いずれの解釈も部分的には成り立つんでしょうけど、どれか一つというのはなかなか難しいなと思えるところがありますよ。
つまり、渋沢龍彦のような解釈はちょっと極端だし、僕は三島由紀夫が真正の同性愛者だとう思っていないんです。彼の同性愛者の相手という人が書簡や手記を発表しましたね。僕に言わせると、ああいう人は同性愛の対象でない。つまり、同性愛の対象だったら、異性愛の熱烈な恋愛をして、一方が死んだときに内心に秘めているのと同じで、一種の暴露本みたいなもので公表しないと思います。三島由紀夫は普通の人よりも同性愛的な志向が強かったけど、それ一点張りで解釈されると、ちょっと違うのではないか。
だけど、一緒に市ヶ谷に突入した人たちとは、同性愛的な関係にあったんだという伝説はあります。それは僕には分からないけど、そうであれば軍隊なんかみんな同性愛者になってしまう(笑)。大島渚(1932~)の映画『戦場のメリークリスマス』で、捕虜収容所で同性愛的な関係をもったということをとがめられ、腹を切る場面がありますね。僕には架空で、「そんなとんでもない話はねえよ」と思えるんです。だから、三島由紀夫も同性愛者ではなかったのではないかと思っています。
吉本隆明『老いの流儀』NHK出版2002年
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