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2004.06.03

銀の心臓ケース

オーストリアの王家、ハプスブルグ家の埋葬方法は非常に特殊でした。死体から心臓だけ取り出して、わざわざ銀製のケースに入れて教会に収めていました。

 これは非常に特殊な埋葬方法で、この地方でも実施していたのはハプスブルグ家の一族だけでした。完全にハプスブルグ家のローカル・ルールによって埋葬が行われていたわけです。
 では、なぜ何のためにこんな方法をとっていたかというとどこにも書いてありません。おそらくは当時あった心臓信仰、つまり心臓に魂が宿っているという考え方と関連があるのでしょうが、詳細は不明です。
 この埋葬方法をする場合には、銀製の心臓ケースを作る人も必要になります。さらに解剖をする人も必要になります。しかし、歴史書には誰が解剖したかは書いていない。実質的な主語なしで「かくかくしかじかの方法で埋葬された」と書いてあるだけです。(中略)
 ハプスブルグ家の死体の解剖をしていた人間は、「世間の人」ではなかった。都市の人間から見れば賎民だった。彼らは主語にはならなかった。
 つまり、ここでもやはり共同体のルール、あるいは暗黙の了解で解剖、埋葬がおこなわれていたわけです。このへんは、これまで述べてきた「世間」の概念に非常に近い。西洋においても、死に関していえば必ずしも全てを表に出していたわけではないということを示す例ではないでしょうか。
養老孟司『死の壁』新潮新書2004年

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