マジェスティックへ行け
或る日、グリーンが、アメリカ人のことをどう思うかとたずねるので、その頃流行りだしていた小話を紹介してやる。
ミシガン州立大学でヴェトナム史とヴェトナム語を勉強した青年が<<自由防衛>>の理想に燃えてサイゴンにやってくる。着くとすぐに彼はシクロをつかまえ、流暢なヴェトナム語で、マジェスティックへいけと命ずる。シクロにゆられながら青年は運ちゃんにいう。ぼくはミシガン大学でヴェトナム語を勉強したんだよ。ヴェトナムのことは何でも知っているし、ヴェトナム語はペラペラだ。君たちはよく人をダマすそうだけれど、ぼくはダマされないよ。まっすぐマジェスティックへいきたまえ。運ちゃんはすっかり恐縮してしまい、旦那のヴェトナム語は大したもんだ、これじゃダマそうたってダマせるもんじゃありませんや、という。三〇分ほどかかって青年はホテルにつき、一〇〇ピアストル払う。払いながら彼は、どうだい、わかったろう。ぼくだけはダマせないんだよ。何しろミシガン大学なんだから、という。翌日、彼は散歩にでて、昨日シクロを拾ったところまでいってみたら、たった七分でいけた。ためしにそのあたりにいたシクロの運ちゃんにマジェスティックまでいくらと聞いてみたら、運ちゃんはとびあがって手をうち、
「旦那、五ピーでいきやしょう!」
と叫んだという。
開高健『夏の闇』新潮文庫
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